歓喜天倶楽部

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日本一多趣味のテキストライター篠野が魅せる。日本一多趣味なブログ。

強がらなくて、いいよ。



最近のあなたのマイブームは何ですか?私は自分の髪の毛を引きちぎることと、言葉の正しさを考えることです。
私はよく自分の髪の毛をブチチチと引きちぎりながらいろんなことを考えています。
「言葉の正しさ」と体裁よく言ったけど、結局気にしてるのは「その発言が本心かどうか」です。自然体であるかどうかとも言える。
例えば「楽しかったです」と言ってくれたとして、
それが本心から来た言葉かどうかを必ず気にしている。社交辞令は最たる嫌いな例。
社交辞令を言う人は本心を隠すことを自分で強いているし、強いられている。
私にリスクを見出している証拠であるわけで。

スカイダイビングが大雨で中止になって「楽しかったです」な筈がない。
ムカデ人間の続編が楽しい筈がない。
もしかしてマッドなサイエンティストの側の人間ですか?
社交辞令のための嘘ではなくとも、いろんな発言が気になってしまう。

「このコーヒー美味しいですね」
美味しいわけがない。明らかに苦い。
その「おいしい」の文頭には「まあ他のコーヒーよりは」が含まれるはずで、
美味しいのではなくて、香り高くて香ばしくて、とか
そういう感想のほうが私のような喫茶店のマスターにとっては嬉しい言葉だ。
このように、いきなり総括せずに詳細の感情を伝えたほうがマスター冥利に尽きるというものだ。
香りが好みだとか、飲みやすいとか、そういうのを総括して開口一番に
「美味しい」
なんていうのは、そうだな、勿体ないと思う。
あと普通にカルピスのほうが美味しいと思います。

こういうことをひとたび考えだすと、
納豆とかいう腐った豆を「美味い」と思ってしまうのも人間のバグなのではないか。
というかあれは大体タレが美味い。本当は君も気づいているんだ。
焼肉も、しゃぶしゃぶだってそう。
私たちはタレを食うために体裁として納豆や肉を食っているだけです。
私たちはいつだってアイスの蓋を舐めたいし、
いつだって鰻の蒲焼のタレで米が食えるはずなのです。
本当のことを言いなよ。ほら、恥ずかしがらないで。
スーパーで無料の天かすを手に入れたらそれをご飯にかけて、
ほんの少し、めんつゆを垂らして、召し上がれ。
真の幸福とは、そういうものでもあると、思わないか?

タレを摂取するために肉を媒介にする行為というのは、
なにも食事だけに当てはまるわけではないと思います。

私のランボルギーニフェラーリによってあと少しでメルセデスがベンツしそうなとき、
君はニコリと笑って、私のカウンタックを「美味しい」と言ったのでした。
生まれて初めて、そう言われたとき、
途端に私のランボルギーニはみるみるうちにアルトラパンへ姿を変えていきました。
私は沈みゆくその夕日をただ眺めながら、
「低燃費…」と小声で呟きました。さすがに嘘ですが。
ちなみにこれもタレと肉理論に当てはまる話で、
元来、メルセデスをベンツさせたいがためにランボルギーニを媒介にしていただけのはずではないでしょうか。
それなのにランボルギーニのテイストの話をしちゃったもんだから、
私の中で「いやそれ嘘すぎでしょ…」となったのです。
言葉の選択を誤ったパターン。大丈夫、誰も責めやしないさ。

あの時、何が正しかったのかと今更になって考えたりしませんが、
「あなたのランボルギーニカウンタックできて嬉しい」とか、
「美味しい」などという明々白々な嘘ではなく、
本心でなくても君の優しい嘘が、その言葉をもたらしたなら、
君に震えた私と我がエヴァンゲリオン初号機とのシンクロ率は80%を上回って、
知ってる天井にアンビリカルケーブルをリリースしていたんじゃないか。
とか、思う。

だけど現実は違う。
結局プラグインロックマンエグゼトランスミッションすることは、なかった。

時が経った今、なぜあの時そうなってしまったのか、
結果傷つけることになったのか、手に取るように分かる。
「上っ面の愛の言葉よりちゃんと抱いてやらなきゃ」と誰かが歌っていたように、
それができなかった私は結果、君を傷つける事になった。
缶チューハイを三万五千ギガリットル飲んで普通に酔いつぶれていたというのもある。
誰だって缶チューハイを三万五千ギガリットル飲んでいたら、なにわ男子をSexyZoneさせている場合ではなくなってしまうだろう。

男という生き物はここぞというタイミングでこそメンタルに左右されやすく、
蝶のように儚い。
今の私は、
沈む夕日をただ眺める事しかできなかったあの時の私ではない。
かつてのメロスだって、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も速く走ったのだ。
ああ太宰よ。その美しい比喩表現は、現代で「マッハ11だ」と笑われているぞ。

もしも、今の私の記憶があの時の私に干渉できるのであれば、
これを受け取ったあの時の私は、あなたを抱きしめてこう囁いたことだろう。

「強がらなくて、いいよ」

そう言えたなら、確定した未来を変え、
シュタインズ・ゲート世界戦に辿り着くことだって
できたのかもしれない。

なんだこの話。
旅に出ます。どうか探さないでください。